読書感想「サンカの民と被差別の世界」五木寛之

講談社から2005年に出版。(五木寛之こころの新書シリーズ6)

本書は瀬戸内海の島々に暮らしていた人々の生活や歴史、差別問題などを民俗学者の沖浦和光氏のサポートと供に紐解いていく。

そして本書の後半では江戸時代の東京・浅草に住んでいた穢多(エタ)非人(ヒニン)といった身分である人々の暮らしも書かれている。

島々や山を漂泊して暮らしていた流浪の民である「サンカ(山窩・山家)」や「家船(えぶね)」、「海民」と呼ばれた人が色々な場所を行き来した住所不定の暮らしをするようになったのか?ということが分かる。

「サンカ」のイメージを悪くした(山窩という文字で称した)のは小説家の三角寛の影響であったこと、昭和27年の住民登録制度ができる前は移動したり放浪したりする人のような無籍で徴兵に応じない、納税や義務教育の義務を放棄した人達に対して国が困ったからである。

一生無籍であるそんな漂泊者や放浪者に心情的な支持を持つ人たちがいたからサンカ小説が支持されたり、映画「男はつらいよ」の主人公の寅さんに惹かれるのである。

「海民」が多い瀬戸内海は魚を採って殺す殺生戒を犯していることで陸の民である町衆や農民から一段低く見られ卑賤視(ひせんし)された。「海民」の多い瀬戸内海はその土地柄、浄土真宗が多い。

興味深かったのが瀬戸内海の海の民(海民)の出自で「阿曇系」「住吉系」「宗像(むなかた)系」「隼人系」といった分類についてだった。

倭人のルーツについても書かれていて北方系民族は疾走するため下半身が発達し、南方系民族であれば船を漕ぐ文化で上半身が発達している。なので瀬戸内海の「海民」の人々は南方系が多いのではないか?と察している。

海民は蛇や龍神を信仰しているが、農民にとっては蛇は不吉で嫌われているというところが面白い。

江戸時代の東京・浅草の差別についても書かれていたが、浅草は穢多(エタ)非人(ヒニン)の身分の人々をまとめる頭がいて、エタ頭は弾左衛門、ヒニン頭は車善七でまとめていた。

エタの仕事とヒニンの仕事が決まっていてそれは一般の人が嫌がる仕事であった。

吉原遊郭も浅草にあり、エタ・ヒニンの人々も住んでいたり、寺や火葬場や刑場もあったということを想像すると浅草はずいぶん混沌とした場所であったということが分かる・・・。

差別されてきた身分の人々の歴史や暮らしや闇を考えさせられた本だった。

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